「ほんとうの願い」

 

 むかしむかし、


 なんでも叶えてくれる「魔のもの」がおりました。
 魔のものは、人を満たすために日々、懸命に働いておりました。
 人を満たすのが自分の役割だと思っていましたから。

 

 

 お金持ちになりたいと願う男を、お金持ちにしてやりました。
 「欲しかったのはお金じゃなかった」
と言われました。

 

 美しくなりたいと願う女を、美しくしてやりました。
 「美しくなりたかったわけじゃないんだわ」
と、女はさめざめと泣きました。

 

 偉くなりたいと願う卑屈な者を、偉くしてやりました。
 偉くなれば偉くなるほどその者の卑屈さは増していき、
 「意味がなかった」
と叫ぶと、ついに気が狂ってしまいました。

 

 強くなりたいと願う孤独な者を、強くしてやりました。
 強くなれば強くなるほどその者は恐れられていき、ますます孤独を深くしました。
 「こんなはずじゃなかった」
とこぼすと、ひざまずいたまま動かなくなりました。

 

 夢見がちな少女がいました。
 毎日、雲に竜を描いては空を飛びまわり、花を見ては妖精が生まれ、蝶や鳥とワルツを踊るのを、うっとりと想像するのです。
 魔のものはそれを知ると、その少女の夢を全て叶えてやりました。
 「何も想像できなくなったわ!」
と、絶望したように少女は怒りました。

 そこで、想像したことが全て現実になることを逆手に取って、少女はこう言いました。

 「想像することが楽しい世界に戻して、夢魔!」

 

 

 魔のものは舌打ちをすると、すっかり元通りに戻してこう言いました。
「ちぇっ、みんなもう満たされていたんじゃないか」
 パチンと音がして、魔のものは消えました。
 そうして二度と戻ってきませんでした。

 

 

 すっかり元に戻った世界で、今も、
 男は金持ちになりたいと願い続け、
 女は美しくなりたいと願い続け、
 卑屈な者は偉くなりたいと願い続け、
 孤独な者は強くなりたいと願い続けています。
 

 「だったらいいのに」
と、心踊らせることで満たされていることにも気がつくことなく。

 

 もちろん、夢見がちな少女も、想像し続けています。

 空想こそが楽しいことを、彼女は知っているからです。