「空に帰ったお月さまのおはなし」

 

空を眺めていたら、お月さまがチカチカして、ストンと落ちてきた。

 


そのまんまの大きさで。

 


お母さんに言ったら、

「月って、とーっても遠いところにあるから、そのくらいの大きさに見えるけど、ほんとはとっても大きいのよ」

と、信じてくれなかった。

 


目の前にあるのにな。

 


それからお月さまは空へ昇ることがなくなったけど、大人は気がつかないみたいだ。

 


お父さんに、

「最近、お月さま見た?」

と聞いたら、

「そういえば見てないな」

と、ケイタイばかり見て顔をあげようともしなかった。

空を見上げて一緒に探してくれたら、「じゃじゃーん」って自慢しようと思ったのにな。

 


空も見上げずに、お月さまが見られるわけないじゃんね。

いや、見られるんだけど。

だって、ほら。

お月さまったら、あれから空へ帰りもせずに、ぼくの部屋にいるからさ。

 


お月さまって、とっても不思議で、毎日、形も色も変わってしまう。

銀の盆のようなときは、平たくて硬い。

黄色いぼんぼりのようなときは、ボールみたいによくはねる。

ぼやーっとしてるときは、ふわふわしすぎてて、触ってるのかよくわからなくなる。

オムライスみたいなときなんて、ほんとに甘いたまごの匂いがしてきたから、ケチャップをかけて食べてしまった。

 


食べてしまった。

 


そしたら、お月さまの声が聴こえてきた。

 


「誰も見てないんだもん。

 毎日、今日はどんなカッコをしていこうかなって、うんと頑張ってたんだけどさ。

誰も見てないから。

うーんと大きくなったら見てくれるかな?

すごーく赤くなったらびっくりして見ちゃうんじゃない?

ってさ。

ドロドロにとけたこともあったよ。

雲に隠れてチラチラしてみたり、

昼間のお化けになったこともあったけどさ。

誰も気づかないんだもん。

つまんなくってさ。

ここにいたら、きみが毎日、驚いてくれるもんだから楽しくて」

 


「でも、ぼく、食べちゃったよ」

 


「うん。美味しかった?」

 


「美味しかった」

 


「また、食べたい?」

 


「うーん。それもいいけど、

ぼくはまた、お月さまを眺めたい。

ぼくの部屋でもいいけどさ、空で跳ねるのとか見てみたいな」

 


すると、お月さまは嬉しそうに笑って、

 


「じゃ、見ててね!」

 


というと、ぼくの中で光だして、びゅーーーーんって!

飛び出していっちゃった。

 


ぼくも、いそいで外へ出ると空を見上げた。

 


お月さまは、空をぐるぐる駆けて、ぴょんぴょん飛び跳ねてた。

とっても楽しそうに。

やっぱ、ぼくの部屋じゃ小さすぎだと思ったよ。

 


お月さまは、ぼくから飛び出していくとき、ぼくの心にちょっと欠片をおいていった。

お月さまにも、ぼくの心がちょっとついてる。

だからかな、お月さまが空へ昇ると、ぼくにはわかるんだ。

お月さまも、必ずぼくを見つけて、ついてくるよ。

 


ほんとかな?

と思ったら、きみも、空を見上げてお月さまを探してみるといいよ。

変なお月さまが見られるかもしれない。

そうしたら、きみのところにも落ちてくるかもしれないよ。